漢方薬や鍼灸治療に関する豆知識を中心に、皆様のお役に立つてるような
話題をコラムにてお伝えしていきたいと思っております。
冷え性
高木嘉子先生に『冷えと冷え症』(新樹社書林)という著書があります。著者が冷え症で悩んでいて、その視点から解説、説明されてあって、とても説得力があります。この本を参考にしながら、「冷え性」を整理します。
〔1〕 体温
体温は、身体の中で熱が作られ(熱産生)、そして身体の外へ熱を捨てて(熱放散)、一定の温度に保たれています。
* 熱くなればさまし、寒くなれば熱くなる。これは大事な原則です。熱い食べ物を摂取すると、一時的に体温が上がりますが、体温が高いのは身体に悪いので、身体としては下げようと指令を出し、発汗させます。そして、体温が下がって、平温になります。たっぷりお風呂に入って暖まったとしても、温まりすぎも身体に危険なので、体温を下げるような指令が出、やはり汗がたくさんでます。その結果、いつも通りの体温に落ち着くわけです。湯冷めというのは、温まりすぎたので、それを一生懸命冷ましているうちに、さめすぎたものです。
* 身体は、季節に合わせて、汗腺の開・閉を調節しています。夏季は汗腺を開き気味にセットし、いつでも汗がでるように準備しています。冬季は閉じ気味にセットし、むやみに外の冷気が汗腺から入らないようにしてあります。人間が自然に合わせているわけです。
夏は、クーラーによる風邪引きが多くなりますが、開き気味の汗腺から、クーラーの冷たい空気が身体に入り込んだものです。
夏の暑さに順応するように出来ていますから、もちろんクーラーがなくても過ごせます。いつでも熱を発散するような体勢になっていますから、身体は冷えやすくなっています。クーラーで冷やすのは、冷ます準備を使わないのですから、次回からはだんだん準備しなくなり、ついにはクーラー無しでは生活できなくなります。四季折々の自然に溶け込んでいれば、身体はそれに馴染んで、暑さ寒さに順応しようとしていますから、本当は人工的な生活を避けたいところです。
〔2〕 熱産生
細胞は絶えず物質を取り入れ、細胞内での新しい物質の合成し、あるいは物質の分解を盛んにおこなっていて、これを代謝といいますが、この代謝の際にエネルギーが産出されています。目が覚めている状態で、生体機能の維持に必要な代謝量を基礎代謝量といい、この基礎代謝で産生されるエネルギーは体温の維持に重要です。
* 熱産生が多いのは肝臓と筋肉です。肝臓の病気は別とすれば、一番問題なのは筋肉です。筋肉が多くて、たくさん動かせば、たくさん熱が発生します。この逆を考えれば、なぜ冷えるかわかります。足が細くて、あまり歩かない人は、こういう理由で足が冷えます。足が細くても、積極的に歩けば、足の冷えは改善されます。
* 身体は年齢とともに寒がりになってきます。これは基礎代謝量が関与していて、各部分が少しずつサボり始めてきているからです。なので、年齢を重ねるにしたがって、こまめに動くことを心がけていないと、だんだん冷え症になってきます。身体の冷えが病気の根源だという本も出ていますから、相当に注意しておかねばなりません。
* いざ運動しようと思っても、膝が痛いとか、腰が痛いとか、なんらかのブレーキになる理由があると、運動もできません。それを考えると、膝や腰を強くする運動を40歳位からしなければなりません。つまり、老後の身体のために、動くうちに運動を始めなければなりません。
〔3〕 たべもの
暖かい食事をとれば、一時的ですが体温が少し上がります。ラーメンなどを食べると汗がでますが、まさにそれです。反対に、冷たいものを食べると、体温が少しさがります。体温が下がると、(1)体温を上げようとする、(2)体温が下がったままになる、の2通りになります。(1)の人は健康な人で、問題なのは(2)の人で、体温を上げる体力がないので、下がったままになってしまいます。こういう人は、絶対に、冷たいものはとらないようにしなければなりません。夏でも、冷たい飲料、冷たいそば・うどん、冷たい果物、アイスなどは絶対禁止です。身体が温まるまで解禁しない、というくらいの厳しさがないと改善しません。
〔4〕 着ているもの
身体の中で熱が造られても、外の寒さに熱を奪われては、やはり身体は冷たくなります。一番なのは、寒さ対策です。冷えは下から
〔5〕 胃腸が弱い
消化能力が低下している場合は、熱源になる栄養が乏しくなるので、それによって身体が冷えます。胃腸が丈夫で、何でも食べ、食べ過ぎの人は、暑がりです。暑がりなのに、セビロを着ているのは、どうみても自然に反しています。
〔6〕 腎
東洋医学では、足腰を支配するのは腎とみなしていますから、腎のはたらきが低下していると足が冷えます。腰が悪い人も足が冷えます。
〔7〕 低血圧
身体の中で作った熱は、血液で全身に運搬します。したがって、低血圧で血流が弱い人は、足だけではなく全身が冷えます。
というわけで、「冷え性の特効薬」というものは期待しないでください。体の状態をよく観察し、悪いところを丁寧に改善するのが、合理的な治療だということは、ご理解頂けたと思います。医療に「近道は無く」「上手い話は無い」と思って下さい。
冷たい飲み物、食べ物を摂取すると、体温がさがります。
外経性
単純に足が冷えている場合であり、腰から足先まで丁寧に診察し、どこに問題があるかを見つけ出します。
- 腰から足へ神経(座骨神経)が出ていますから、その神経が圧迫されて神経の働きがわるくなり、足が冷える、しびれる、痛む、違和感があるなどの症状がでます。したがって、腰を丁寧に診察する必要があります。場合によっては、レントゲンやMRIをとる必要があります。
- 腰に全く異常がない場合は、脚(大腿部・下腿部)に慢性疲労(いわゆるコリ)が有る場合も、足が冷えます。脚を酷使するスポーツをしている人に稀にみられます。この場合は、触診で見つけ出します。
- 腰にも、脚にも、異常が無い場合は、全く足の問題です。足を包む筋肉や皮が薄いともちろん冷えますが、多くは、冬なのにストッキングを履いているとか、靴の底が薄いとか、防寒対策の不十分が原因です。それを改善するのが最善の治療法でしょう。
- 〔腎〕東洋医学では、腰と下肢は腎が主宰しているとみなしています。その腎は、加齢と共に衰えます。
東洋医学では、脈診、腹診、背診、問診などを駆使して、どの内蔵のトラブルなのかを見つけ出して治療します。この場合の内蔵は、西洋医学の内臓とちがいますので、西洋医学的な検査で問題がなくても、東洋医学的な検査で問題が見つかることもあります。
足が冷えているといっても、以上のことを想定し、問診、脈診、腹診、背診を行います。以上の診察でどのような所見もない場合は、外経性であると見なします。
原因さえはっきりすれば、治療は難しくありませんが、大抵の人は慢性化していて、これらの原因が複雑に絡み合っていますので、治すのは難しくなります。
漢方は身体の中から暖まる効果を持つ生薬を持っていますから、冷えに対しては抜群の力を持っています。
お灸も外から温める有効な治療法ですが、他の方法より優れてますが、限度があります。